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サクラソウ
江戸から伝わる日本らしい春の花

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サクラソウは、江戸時代、荒川沿いの戸田ヶ原(埼玉県戸田市)や浮間ヶ原(東京都北区)に野生していました。そして、江戸の人たちが改良を積み重ね生み出したのが園芸草花としてサクラソウです。

 

 2019年、東京都にある神代植物公園のサクラソウコレクション約290品種が、(公社)日本植物園協会の認定制度「ナショナルコレクション」、その第1回認定を受けました。「ナショナルコレクション」とは、日本産の絶滅危惧植物の生息域外保全を目的とした、植物保全拠点園ネットワーク事業をベースに、野生種、栽培種に関わらず、日本で栽培されている文化財、遺伝資源としての貴重な植物を守り後世に伝えていくことを目的とした制度です。

 

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ナショナルコレクションの認定証と楯

 

 

これまでも各地の趣味団体などが、それぞれでサクラソウの伝統をつないできましたが、今回の認定で、神代植物公園を中心に、ネットワークを構築して、園芸文化としてのサクラソウを、継承し、情報公開されていくことに期待したいと思います。

 

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ナショナルコレクションに認定された神代植物公園のサクラソウ展示

 

さて、サクラソウです。学名はPrimula sieboldii、サクラソウ科サクラソウ属の多年草で、日本から朝鮮半島、中国東北部に分布します。近年、日本国内での自生地は少なくなっています。林間の湿生地や草地に生え、ときに群落し、地中に根茎があって、春になると5~6枚の葉が出て、そして15~40cmの花茎を伸ばして花を咲かせます。

 

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野生のサクラソウについては、大正時代の文人田山花袋が、『一日の行楽』(1918年=大正7年)の中の「浮間ヶ原」の項で、サクラソウを以下のように描写しています。

「川を渡ると、浮間ヶ原である。一面、櫻草で、丁度毛氈でも敷いたやうである。頗る見事である。

 で、日曜、土曜などには、東京から女學生達が澤山やって来る。女學校で、運動會に生徒をつれて来たりするので、櫻草は採られ、束にされ、弄ばされて、娘達の美しい無邪氣な心を飾る。花の中にゐる大勢の娘達――實際繪に書いた美しいシインである。」と。

 

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浮間ヶ原桜草圃場に咲くサクラソウ

 

この時代は、野生のサクラソウが東京の人たちにも身近な花であったことが分かります。しかし、当時でもこういった採取の光景に保全面からは憂慮していた人がいたのかもしれません。2年後、1920年(大正9年)に、現在の埼玉県さいたま市桜区にある「田島ヶ原サクラソウ自生地」が、日本で最初の国指定の天然記念物に指定されています。浮間ヶ原の自生地は現存せず、桜草圃場で栽培・保存をしています。

 

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特別天然記念物「田島ヶ原サクラソウ自生地」に咲くサクラソウ

 

園芸草花としてのサクラソウは、江戸時代半ば、野生種の中の変わり花を見つけ珍重し、さらに種まきと選抜を繰り返して、さまざまな美しい園芸品種が作り出されています。その後、新花を持ち寄り品評会が開かれるなどして、サクラソウ栽培が盛んになりました。

 

江戸の品種

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南京小桜(なんきんこざくら) 江戸享保年間 最古の品種と言われる

 

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左・初瀬山(はつせやま) 右・緋の袴(ひのはかま)

 

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瑠璃源氏(るりげんじ)

 

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有馬山(ありまやま)

 

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宇宙(うちゅう)

 

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蜃気楼(しんきろう)

 

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入野の都(いるののみやこ)

 

江戸時代末期には番付も出されていたようです。ただ、明治以降は西洋から導入された草花たちに関心がいき、サクラソウなどの江戸の園芸は失われつつありました。しかし、サクラソウを愛する趣味家たちがなんとか昔からの品種を繋いで、今に残っているのです。現存する品種約300のうち、約100は江戸で生まれた品種が芽分けで伝承されてきているそうです。サクラソウの品種は花容や花色に変化が多く、見るものを飽きさせません。

 

 

明治から昭和の品種

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窓の梅(まどのうめ) 昭和の品種

 

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春の曙(あるのあけぼの

 

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墨田の花火(すみだのはなび)

 

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白蜻蛉(しろとんぼ)

 

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代々の誉(よよのほまれ)

 

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夕暮(ゆうぐれ)

 

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関台紅(せきだいこう)

 

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左・浅間(あさま)    右・優美の姿(ゆうびのすがた)

 

そして、春の花時には、「花壇」と呼ばれる、様式に沿った観賞方法で楽しむ慣わしがあります。「花壇」での観賞は、釉薬を塗った茶褐色の孫半斗鉢やそれに似た桜草鉢で栽培したサクラソウを、間口一間(1.8m)の瀟洒な小屋に5段の棚に、33~38鉢を千鳥状に飾るものです。江戸時代天保年間に創案されたといわれています。今でも、いくつかの植物園や展示会などでは、「花壇」を設けてサクラソウを展示しています。

 

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サクラソウの「花壇」(さいたま市緑区大崎公園・園芸植物園)

 

残念ながら、4月後半から各地の植物園や展示会場で「花壇」が見られるのですが、今年は新型コロナウイルス禍でほぼどこも臨時休園、イベントも自粛、外出も自粛で見ることができませんでした。しかし、保全植物として大切に受け継がれていきますから、来年以降、また「花壇」も含めて数々の品種を楽しめるはずです。それを楽しみに待ちましょう。

平成の品種

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朝涼(あさすず)

 

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小江戸の春(こえどのはる)初紅(はつくれない)

 

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白鷺(しらさぎ)

 

もちろん、サクラソウはご自身でも栽培を楽しむことができます。水はけのよい培養土で植えて、水切れしないよう水管理をするのがポイントです。花後は増し土をして、日当たりと水やりを十分に行います。梅雨以降、直射日光の当たらない涼しい場所で夏越しをします。植えつけ、植え替えは秋か2月に行い、株をふやすのは芽わけで行います。

 

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東京都北区浮間にある桜草圃場。地植えだけでなくプランターでも栽培している

 

私もサクラソウという植物が大好きで、田島ヶ原の野生や各地の「花壇」を見に行きますが、あの花をみるとホッとする気持ちになるのはなぜでしょう。日本の花といわれるものはいくつもありますが、サクラソウがもっとも日本らしさを感じさせてくれる草花の一つであることは間違いありません。

 

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さいたま市桜区田島ヶ原のサクラソウ

 

 

最後に、サクラソウの栽培・保存に取り組む「さくらそう会」の世話人代表で、サクラソウの研究をライフワークとして活躍されている、元東京都職員で神代植物公園にも在籍された鳥居恒夫さんが、2020年の園芸文化賞を受賞されました。サクラソウの研究や普及活動が認められたものです。

 

 

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2019年11月、新宿御苑で行われた(公社)日本植物園協会主催の第17回植物園シンポジウム「ナショナルコレクション」で講演する鳥居恒夫さん

参考資料

「神代植物公園さくらそうナショナルコレクション」パンフレット
『花図鑑 桜草・続編』鳥居恒夫・著 さくらそう会・刊

取材・構成・文・撮影 出澤清明
園芸雑誌の元編集長。植物自由人、園芸普及家。長年関わってきた園芸や花の業界、植物の世界を、より多くの人に知って楽しんでもらいたいと思い、さまざまなイベントや花のあるところを訪れて、WEBサイトやSNSで発信している。

 

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