2021.03.01 UP
バラをもっと深く知る⑭
全体の印象が大事~“大人の色”バイカラー
赤色、ピンク色、黄色・オレンジ色・アプリコット色、そして白色。それ以外の花色は、みなアンユージュアルunusualカラー(珍奇な色)…。かつてと異なりいまはバラの花色のバリエーションが格段に増えました。バイカラーの花色の品種もその一つです。
濃い花色の高芯咲きで目立つ
「バイカラーbi-color」(複色)とは、違う2つ(bi)の色が花弁に現れていることの色表現。広く見れば花弁の周囲が別の色で縁取られるような色の表現もバイカラーと言えるのでしょうが、これは主に「覆輪(ふくりん)」と呼び、主に一重咲きで花の中央が白かったり黄色かったりする花色は「弁底が白い(黄色い)」と表現されるのが通例です。ここで言う「バイカラー」は、表弁と裏弁が違う色である花についてです。
HT全盛時代は‘コロラマ’(メイアン1967年)、‘ラブ’(J&P1980年)、そして‘希望(きぼう 京成バラ園芸1986年、下の写真)’などの品種がよく知られていました。花弁の内側が赤や濃ピンクで外側が薄い黄色~淡い黄色。剣弁や半剣弁で花の中央を高く、緻密に巻き上げながら花弁の裏表を交互にみせる「高芯咲きhigh 」だからこそ、その花色は華やかに見えます。
フランスのバラに多いバイカラー
カップ~ロゼット咲きが主流のいま、この表弁と裏弁の色が違うバイカラーの品種、フランスのバラに多くあります。
デルバールとドミニク・マサドの最近の品種を中心にご紹介しましょう。
デルバールでは2020年秋発表の‘エスプリ ドゥ パリ’もその一つ。正面から見て、濃いピンクと薄いピンク色が入り混じって、とても華やか。みかたによっては派手にさえ見えます(上 写真:花ごころ)。花を横から見ると色の違いがさらによく分かるでしょう(下)。コンパクトな木立性の芳香花です。フランスのバラをきれいにみせるのには大胆な配色が大事。黄色など明るい色のリーフや花と合わせたいものです。
同じデルバールのバラで似た雰囲気の‘ピンク パラダイス’は、‘エスプリ ドゥ パリ’より少し大きめ。芳香花です。地色がピンク、裏弁と花弁の元部が黄色。地色が濃くないのであまり気付きませんが、その黄色がピンク色をしっとりと見せ、大き目の波状弁とともに花の艶やかさが強調されています(上)。木立性で、庭植えでは一つひとつの花の大胆な華やかさが、さらによく分かります(下)。
ドミニク・マサドの作出品種には、表弁と裏弁がバイカラーの品種が多くあります。同じような花色でも、花の雰囲気は違い、咲いたときの樹姿もまったく違ってみえます。いずれも強香です。(写真はコピスガーデンで)
赤色で裏弁黄色の大輪で、つるバラとしても使えるシュラブの‘ドクトール マサド’。大き目の濃い色の花、しかもバイカラーで、庭の中で圧倒的な存在感を発揮しています。
赤紫と白の中輪で、株は直立性の‘ベル デ セゴサ’。すっとした洗練された株姿で、品の良ささえ感じられます。
ワインカラーと白の小中輪で直立性の‘ソムリエール’。背筋がピシッと伸びたような立ち姿で大房咲き。ときにしなやかに横に枝をたわませて。カッコイイ感じです。
日本のバラでも
そんなに多くはありませんが日本のバラでもバイカラーの品種があり、それぞれ花の個性の強調に、花色が大きな役割を果たしています。
ぱっと見には気づきませんが、紫味のあるピンクで裏弁が濃いのが‘結愛(ゆあ)’。剣弁で最初はふっくらと、ジャムとクリームの甘い芳香を漂わせて上を向いて咲きます。花は咲き進んで次第に横に丸くふくらんむようになっていき、独特の花形の変化を見せます。樹は直立性。バイカラーであることで、成熟した大人の雰囲気に。
‘オルフェオ’(ロサ オリエンティス)は、赤紫と白のバイカラー中輪。カップ~ロゼット咲きで、ダマスク+フルーツの芳香。うつむいて咲くこととその花色にどこか“影”を感じるので、ギリシャ神話の竪琴の名手の名が命名されています。秋花は赤紫色が深くなり(下の写真)、凄みを増した花になることも。樹はコンパクトな木立性です。
バラの花色はさまざま。同じような花色でも、大きさや花形が違っているとまったく別の品種と感じられることもあります。花一輪だけではわかりにくくても、咲いたときの株姿でも、印象は変わります。バイカラーだと大人っぽい雰囲気になりますが、ほかの花色同様、それが「バイカラーだから」ということではなく、花形や大きさ、株姿も含めた“印象”が、大事なゆえんです。
玉置一裕 Profile
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。
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