2019.02.04 UP
バラをもっと深く知る⑤
樹の性質の理解が栽培上達の近道
「つるバラ」仕立て
つるバラは庭を立体的に彩る。花が零れ落ちてもきれい(ピンクの花は‘アンジェラ’。アカオハーブ&ローズガーデンで)
頭上から花が降るようなシーンづくりを
窓を開けると、風がふんわりとこぼれる花びらと一緒に香りを運んでくる。庭に出るとアーチやパーゴラから花が降ってくるよう。壁面には、家の側からみたら色彩の面、外からは道行く人の目を楽しませる-。「つるバラ」は、ガーデニングブーム以来の日本のバラ庭づくりにはなくてはならない存在に。パターンの一つにもなっています。
この大きな理由の一つは、立体的に庭を彩ることができるからです。日本の庭は欧米に比べて狭いため、タテの空間の利用が大事です。とくにこれからバラ庭をつくりたい人にとって、まず入り口にアーチ、そして奥まったところにパーゴラを設置、つるバラをからませて、頭上から花が降ってくるような景色をつくりたいもの。庭が無い場合は大鉢に植えて、アーチやフェンスにからませて立体的に。ここで家族や友達とティータイムを・・・バラのある暮らしの夢は膨らみ、そのイメージの中でつるバラは大きな割合を占めているものでしょう。
最近の「つるバラ」は、「つる仕立て」できるシュラブローズの総称
さて日本でここ20年近く、「つるバラ」の中で、最も人気を集めているのが‘ピエール ドゥ ロンサール’(メイアン)です。つるバラに限らず、あらゆるバラの中で最も人気です。これは誰もが認めることでしょう。‘ピエール ドゥ ロンサール’は春一季咲き、香りは微か、枝は太めで誘引しづらいなどの点がありながらも、圧倒的な花の魅力があります。大きな花は緑を含むオフホワイトの地合に、ピンクの覆輪がきれい入るときが本来の花姿。春に花が咲いたときは、バラを愛した詩人の名とともに、いかにも“バラの夢”を感じさせます。
日本ではすべてのガーデンローズの中で長年トップ人気の‘ピエール ドゥ ロンサール’
この‘ピエール ドゥ ロンサール’、実は短く剪定しても咲くことも知られます。「ラージ・フラワード・クライマー」とされますが、実際にはシュラブローズの血が濃いものとも言えるでしょう。一般に「つるバラ」とひとことで言いますが、最近発表されるバラはほとんどがシュラブローズ。シュラブローズは周知のように枝の伸び方、花の咲かせ方など樹の性質がさまざまで、枝を長く伸ばし構造物に誘引できるもの、またつるバラとして仕立てた方が良いものが「つるバラ」と言われます。仮にシュラブとして仕立てても枝がヨコに張りスペースをとる、またいくら強く剪定しても長い枝がでてくるようなタイプのバラは、「つるバラ」として仕立てた方が日本の狭い庭には合っています。
つまり「つるバラ」とは、つるにもシュラブにも仕立てられる、枝が長く伸びるバラを構造物に仕立てられるものの総称と言えるでしょう。その点、枝が10m以上も長く伸びてつる仕立てをしなければ収まらない「ランブラーローズ」が完全に「つるバラ」と呼べることとは違います。
オールドローズのつるバラ
つる仕立てが可能なシュラブローズのような性質は、オールドローズではハイブリッド・パーペチュアルやブルボンローズなどに多くあり、日本ではつるバラとすることが多くあります。古くから「高芯咲き・四季咲きの白のつるバラ」として親しまれる‘フラウ カール ドルシュキ’や、独特の花色で愛好者が多い‘バロン ジロー ド ラン’は、系統分類ではハイブリッド・パーペチュアルです。
‘フラウ カール ドルシュキ’(1901年)と‘バロン ジロー ド ラン’(1897年)
ノアゼット系統の品種なども、冬剪定で枝を短くすればシュラブに仕立てられ、枝を伸ばせば、秋にも多くの花が安定して咲く四季咲きのつるバラにも。「枝を伸ばしても仕立てられる」から、「つるバラ仕立て」とするわけです。個々の品種でも性質が違います。同じハイリッド・ムスクでも‘ペネロープ’は枝が太めで硬く長く枝を出し、‘コーネリア’は、枝は伸びるものの細めでしなやかです。ノアゼットの‘ブラッシュ ノアゼット’はなかなか枝を伸ばして大きくすることができません。
ノアゼットの‘アリスター ステラ グレイ’(左)と‘ハイブリッド・ムスクの’‘ペネロープ’(右)のつるバラ仕立
つるバラ仕立ての基本は、大輪のつるバラ以来
オールドローズのつるバラ仕立てが盛んになって定着する以前は、「つるバラ」と言ったら、大輪のつるバラが主体でした。仕立て方は春一回だけ、大きな花を豪華に花を咲かせるような方法が主体でした。冬に枝をヨコに寝かせて誘引することで、短めの枝を出して花をたくさん咲かせるわけです。これが、「つるバラは誘引時に太い枝をヨコに寝かせて」という、いまに至るつるバラの仕立ての基本となっています。アーチなら「S字に誘引」というのも、この理屈からです。古い枝も同様にして寝かせて、太い枝から出た細めの枝を2~3芽を残して剪定します。翌年も同様に行いますが、するとだんだん花が咲かない細い枝しか出なくなるので、一つの枝が利用できるのは3年がめやすとされています。壁面等に誘引する場合「植え付け時は壁から30~40㎝離して、枝を寝かせて植える」とされたのも、株元に日を当ててシュートを多くださせるためです。
大輪のつるバラはこのような方法をとらないと、枝先ばかりに花が付いて花数が多くならないだけでなく、とくにアーチ等では上部から暴れるように枝が伸び花が咲くようになって、全体の姿が乱れるからです。
【従来からの「つるバラ」の基本的的な作業手順】
時期:休眠期に水を吸い上げていない休眠期、暖地なら12月~2月
手順:全体のイメージを決める。もっともきちんと行うのなら、結束バンド・ひもなど結束資材をすべて取り除いて、フェンス・オベリスク・アーチなどの構造物から枝をほどく
- 整枝:①できるだけ春に出たシュートを残して古い枝を元から取り除く。取り除く枝の方が多い場合もある②春に出たシュートの枝先は充実していないので10~20㎝をカット。残す古枝の短枝の先は2~3芽残して切る
- 誘引:咲いたとき花が重なり合わないように枝と枝の間を拳くらい空けて誘引していく。ポールやオベリスクは巻きつけていく
【誘引のテクニック】
枝が硬くて太い場合は、ムリに枝をヨコに寝かせるとボキッと折れることがあります。そうしないため、元の方からたわめるように曲げていく、また枝を少しねじりながら誘引していくというテクニックもあります。
こういった方法で、春には構造物と一体となって株元から上部までびっしりと花が咲く光景が実現できます。見事な「仕立て」の結果です。夏にシュートが伸びてきたら折れないように。支柱を立てるか、ひもで結束するなどの方法がとられています。これらの枝が太めの大輪のつるバラは、自然樹形では枝が立ち上がり少し広がるため、壁面やフェンス等に扇形に誘引することがいちばん自然な姿です。英国で言う「トラディショナル・ファン・シェイプ」(伝統的な扇型)の誘引が基本といえるでしょう。 ‘ピエール ドゥ ロンサール’も自然樹形は扇形に広がるので、この仕立て方がもっともムリがありません。もちろん“腕”があれば、アーチやオベリスクにも仕立てることは可能です。
‘ピエール ドゥ ロンサール’をトレリスフェンスに誘引しびっしりと花を咲かせた(京成バラ園)
最近のシュラブローズのつるバラ
最近発表の海外の品種では純粋の「つるバラ」は多くありません。日本の栽培環境でも「つるバラ」として仕立てられる品種やつる仕立てにした方が良い品種が、カタログ等で「シュラブにもつるにも」あるいは単に「つるバラ」と表記されています。またシュラブとつるバラ両方のカテゴリーで表示されることもありますが、実は同じ品種です。
また花の大きさによりミニのつるバラ、小輪のつるバラがありますが、ここでは花一輪でも観賞価値がある中輪~中大輪の品種を中心に、樹の性質と栽培法をみてみましょう。
【仕立て方のポイント】
これらのつる仕立て方は、従来からのつるバラ仕立てを基本として、若干ポイントがあります。
まず観賞時期との仕立て方の関係。大輪のつるバラはほとんどが春一季咲きで、春にびっしりと咲けば、ほかの季節は株姿が暴れてもあまり気になりません。ところがこれらシュラブのつる仕立て、中には四季咲き品種も多くあります。四季咲き品種は伸ばした枝先に花を咲かせるので、春にせっかく構造物にきれいに仕立てても姿は暴れがちです。秋にも株姿をあまり乱さず観賞しようとすれば、木立性品種同様、夏剪定時期に整枝と少し補正して誘引することで、秋花も株姿良く楽しむことができます。また小型のつるバラとしてオベリスクやピラー(柱)に仕立てる場合は、最初から枝を構造物に巻き付けず、支え程度にふわっと固定しておくだけでも花を楽しむこともできます。
大輪のつるバラとの大きな違いは、冬期の整枝・誘引時に、構造物から枝を全部はずさなくてもよい○枯れ枝や花が咲きそうにない古い枝を取り除き○花が咲きそうな古枝の小枝の先の数芽を残して切り○古い枝の上に新しい枝を重ねて誘引していく-といった方法だけでも十分咲きます。
シュラブローズをつる仕立てとすると、株が大きくなので、当然花数が多くなって豪華になります。また株が大きくなると、一つひとつの花も大きめに咲きます。
性質と仕立て方さまざま~最近の「つるバラ」の性質
最近の品種で「つるバラ」と表示されたり言われたりする品種には、枝の伸び方や花を咲かせる性質でさまざまなタイプが登場しています。
- 枝が伸びるタイプ
これには、○最初からつるバラとして育成された海外の品種○本来半つる性のシュラブローズだが、秋に伸びた枝を誘引すれば短い枝も出して花を咲かせるタイプ○伸びた太い枝先にしか花を咲かせないタイプがあります。
A海外の「つるバラ」
育成された本国でもつるバラとして販売されているタイプ。例えばドイツのバラでは小輪の‘ペレニアル ブルー’と‘ペレニアル ブラッシュ’、中輪では‘キャメロット’(いずれもタンタウ社)、コルデス社では中輪~中大輪で‘フロレンティーナ’‘ジャスミーナ’などが本国でも「つるバラ」表示です。
‘フロレンティーナ’は丈夫で育てやすく安定して咲く濃赤のつるバラ
中には海外では木立性またはシュラブでも、日本では枝が長く伸びるので「つるバラ」扱いに。コルデス社の‘アンジェラ’がよく知られます。同社の‘ケルナー フローラ’‘マリー ヘンリエッテ’なども、日本では枝が長く伸びます。伸びた枝を生かして冬に構造物に誘引していきます。
ドイツでの樹高表示は0.8×1.2㎝だが、日本では枝が2~3m伸張する‘ケルナー フローラ’。四季咲き、香り(甘さがあってミルラを含むローズの香り)があって四季咲きの、数少ない「つるバラ」
【つるバラで、短い枝にも花を咲かせるタイプ】
株全体は大きくなるが、短い枝にも花を咲かせるタイプです。ほかのつるバラとの違いは、枝をまっすぐ立てても、太い枝から出した短い枝先に花を咲かせることです。‘フランボワーズ バニーユ’(メイアン)や、‘フロレンティーナ’(コルデス)などがこのタイプです。もちろん枝をヨコに寝かせて誘引しても、花を多く咲かせます。
枝をまっすぐ立てて誘引しても、横に寝かせても。自由に仕立てられる‘フランボワーズ バニーユ’。ガーランド仕立(パリ・バガテル公園、左)とオベリスク仕立て(マルメゾン宮殿、右)
- 枝が伸びるシュラブローズやFLをつる仕立てに
本来シュラブローズですが、枝がよく伸びるため、伸ばした枝を誘引すればつるバラに仕立てられるタイプです。イングリッシュローズやハークネスローズのシュラブタイプ、フレンチローズ、ロサ・ジェネロサの中に多くあります。
バラ殿堂入りしているイングリッシュローズの‘グラハム トーマス’は、日本では黄色系のつるバラとして定着している(横浜市・港の見える丘公園)
ハークネスローズでは、‘ジャクリーヌ デュ プレ’や‘パーキー’‘フェッツァー サイラ ロゼ’などの「ガーデンシュラブ」はみな、つるバラとしても仕立てられる。シュラブにもなるが太めの枝が長く伸び横に張るのでつるバラとして仕立てた方がよい‘シンプル ライフ’。一重・大輪で、多弁の花の間で庭に変化をつける
春も秋も咲き、香り高い。トゲは少なく誘引もしやすい‘エドゥアール マネ’はデルバール社の自信作。少し大きめのシュラブとしても
2018年発表されたばかりの‘フラマンローズ’(デルバール)は大きな花。枝がごく細いのでうつむきがち、枝はよく伸びるのでつる仕立ての方がよい
ロサ・ジェネロサ(ギヨー)はオールドローズを意識して育種され枝が伸びる品種が多いので、つるバラにも。間伐材の構造物に仕立てた‘エリザベス スチュアート’(上)とシュラブ仕立ての‘ラデュレ’(コピスガーデン)
またFL表示ですが、かつて全盛だった‘シティ オブ ロンドン’や、すっかりポピュラーな‘ストロベリー アイス’など枝が伸びる品種も、つる仕立てに向いているといえるでしょう。最近発表の品種では作出のアンドレ・エヴ社が「トールフロリバンダ」と表現する‘ピエール エルメ’も枝がよく伸びるのでつる仕立てに向いています。同社の作ではシュラブの‘ローズ ドゥ グランヴィル’も同様です。
1971年発表、長い人気の‘ストロベリー アイス’
‘ピエール エルメ’(アンドレ・エヴ)。大きな房咲きになるが枝が伸びるので、長く伸びた枝は誘引、株の下の方の枝は段切りにして株全体に咲かせる。大苗から1年めの春(上)、株が育ってシュートに見事な大房になって咲いた2年目(下)の株
B-1日本生まれ①つるバラ
河合伸志さんが早くから‘伽羅奢(がらしゃ)’、‘マリー キュリーIYC2011’などつるバラを発表してきました。最近では2017年横浜都市緑化よこはまフェアの記念花で、大輪の‘ル ポール ロマンティーク’や、芳香中輪の‘メサージュ ドゥ ヨコハマ’などがあります。絞りの‘サラマンダー’や2018年発表の茶色の‘ショコラティエ’もつるバラです。
花径4cmの小輪ですが最近もっとも人気を集めているのが、‘玉鬘(たまかずら)’です。桜ピンク色で花保ち良く、枝は3mほど伸びます。オレンジ色の‘珠玉(しゅぎょく)’の枝変わりを固定し品種化したもので、同様に‘珠玉’から紅色に変わった‘紅玉(こうぎょく)’もあります。
‘メサージュ ドゥ ヨコハマ’(左)は強いティー系の香り。右は花もちも良い‘玉鬘(たまかずら、右)’。いずれも枝が約3m伸張する(横浜イングリッシュガーデンで)
B-2日本生まれ②「つるバラ」仕立てが可能なシュラブローズ
日本のバラの中で、シュラブにもつるバラにも仕立てられる品種が多く登場してきました。河本バラ園の作出品種は木立性品種が多いのですが‘ローブ ア ラ フランセーズ’や‘ラ ベル ポー’は、シュラブにも、つるバラにもできるタイプです。最新品種の‘アリエッタ’は、大型シュラブでつる仕立てが可能です。
自然樹形は直立性の‘ラ ベル ポー’
“日本のシュラブ”ロサ オリエンティスにはシュラブ樹形でも、つるバラに仕立ても、株元から上部まで花をきれいに咲かせる品種が多くあります。‘モン クゥール’‘オデュッセイア’‘ダフネ’など人気品種は、いずれもシュラブにもつるバラにも仕立てられます。2018年発表の‘ペネロペイア’も同様です。中くらいの太さの枝がよく伸びる品種には‘プシュケ’‘フィオーラ’‘エンデュミオン’などがあります。
太めの枝が長く伸びる大輪の‘オーブ’や、枝はあまり太くないが大房咲きになる‘ホーラ’は、つるバラ仕立ての方が向いているといえるでしょう。細い枝先に大きめの花を咲かせる‘ニンファ’は、「段切り(段階剪定)」で、つるバラとして仕立てられます。
2018年春発表の‘ペネロペイア’。自然樹形は大きめの直立性シュラブだが、つる仕立てにするとたくさんの花が楽しめる
樹勢がとても強く、つるバラとして大きく育てた方が見応えがある‘オーブ’
大房咲きになる‘ホーラ’。秋~冬の花はさらに色濃くなる
細い枝がまっすぐ伸び、大きめだけど花弁数の少ない花の重みでやわらかに広がる‘ニンファ’。通常はシュラブ仕立てだが、伸びた枝を段切りにしてアーチに仕立てた。たくさん花が咲いた春花(左)と、9月に枝先を整えて咲かせた12月の花。花数はやや少なくなるが、一輪は大きく開く(右)
【段切り(段階剪定)】
段々に花を咲かせ、構造物を花一杯にする方法です。花が咲く枝の太さを考慮し、○咲いたとき枝が伸びる長さをイメージして○花が咲く枝の太さで○下の方は短く、中間は中くらいなど剪定して誘引し、段々に房咲きに咲かせて、構造物を覆うように仕立てます。多くのシュラブローズに効果的です。
- 特徴的な仕立て方が必要な「つるバラ」
従来の方法と少し違う仕立て方を行った方がよい品種があります。
【段切りにして花を咲かせるタイプ】
‘ナエマ’は伸びた太めの枝先だけに花を咲かせ細い枝先には花をつけないので、つるバラとして仕立てる場合は段切りにします。
‘ナエマ’は枝をヨコに寝かせて誘引しても細い枝先には花がつきづらいので、花が咲く太さで、段切りに
【横に張る枝を持ち上げてつる仕立てとするタイプ】
自然樹形では枝が横に張るため、持ち上げてつるバラとしていきます。‘レイニー ブルー’(タンタウ)‘リパブリック ドゥ モンマルトル’(デルバール)などがあります。
真紅の‘リパブリック ドゥ モンマルトル’は、自然樹形は横張り。伸びた枝を持ち上げて構造物に誘引してつるバラとする。短い枝先に真夏でも次々と花を咲かせる
- 「つるバラ」表示されるが、大きな木立性として育てた方がムリの無いタイプ
枝が長く伸び株が大きくなり、技術があれば誘引も出来できますが、枝が硬く誘引するのには少しムリがあるので、樹木のような大きな木立性(トールシュラブ)として仕立てた方がよいタイプです。その一つが‘ルージュ ピエール ドゥ ロンサール’(メイアン)です。なお大きな木立としてバラを育てる場合は、フェンスに沿わせて固定しておくか、樹木のように株元に支柱をたてておくと、突風などにも安心です。
‘ルージュ ピエール ドゥ ロンサール’は、枝が硬く太いので、大きな木立性とした方が自然。京成バラ園のショップ前(左)と、フェンスに沿わせて木立としているフランス・シャブーフの事例(右)。
- 海外では木立性で株がコンパクトでも日本では「つるバラ」として扱われるタイプ
「つるバラと書いてあるけど、なかなか長い枝が出てこない」。そんな経験はありませんか? これらは苗のうちに蕾を取り続けないとなかなか株が大きくならないタイプです。海外の品種では、‘レイニー ブルー’をはじめ‘クリスティアーナ’(コルデス)そして‘アミ ロマンティカ’(メイアン)などがあります。株が小さいときから、ともかく花を咲かせます。反面なかなか長い枝が出ず大きくなりませんので、生育初期は春だけ花を咲かせて、そのほかの時期は蕾を取り続けます。するとそのうちに樹に力がついて長く伸びる枝が出てきますので、その枝を生かして誘引しつるバラとします。その間3年くらいかかりますが、いったん株が育ったら、たくさんの花を繰り返して咲かせ続けます。
‘クリスティアーナ’。細めの枝がすっと横張りに伸び、シュートの出もよいが、蕾をとり続けないと大きくはできない。むしろ低めのフェンスへの仕立てに向いている
細い枝によく繰り返して花を咲かせる‘アミ ロマンティカ’。大きくしたい場合は生育初期に蕾をソフトピンチする
ライフスタイルに合わせて仕立てを楽しむ
いまのバラはシュラブをつる仕立てにするので、ひと言で「つるバラ」と言っても、このように性質と適切な方法はさまざま。バラ園などで同じような姿でフェンスやポールに仕立てられ花が咲いている光景は、それぞれのガーデナーたちがみな同じように咲くように工夫しているものです。要は、枝が伸びるからつるバラ仕立てとするわけで、ある方法で枝が伸びないバラも、別の方法ではつるバラとして仕立てられます。逆に言えば「つるバラ」と表示されていても、シュラブ仕立てにもできる、ということです。
家庭においては、バラ栽培の“腕”がある方にとっては、最も仕立ての創造性が発揮できるのが、つるバラと言えるでしょう。栽培者の工夫によって、育種家も意外な、驚くような美しさが表現されることもあります。園芸の醍醐味です。
逆にとくに初心者をはじめまだあまり栽培に慣れていない方にとっては、そう神経質にならないことも大事です。つるバラだからと言って必ず枝を寝かせて等間隔で誘引する必要はないでしょう。オールドローズのつるのように、びっしりと花を咲かせない方がきれいな場合もあるかもしれません。選んだその品種に最適な仕立て方をバラ専門店などでよく相談して、挑戦してください。
また植えてあるバラの本数が多くなると、冬につるバラを「仕立てる」ことがたいへんになることもあります。「仕立てて」きれいに咲かせる楽しみはもちろんありますが、ある程度放任しても、春は花が咲きます。バラ園と違って家庭では「必ずきれい仕立てなければならない」ことはないでしょう。ライフスタイルにあわせて、自由に楽しむことが大切です。
ちなみに下の写真はフランスの個人宅の‘ピエール ドゥ ロンサール’。伸びた枝を壁面のワイヤーに誘引してあるだけで枝数も花数も少ないのですが、これはこれで「絵」になっていませんか?
玉置一裕 Profile
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。
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