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中国バラ紀行 魅惑の野生種を求めて
~ロサ・キネンシス・スポンタネア、ロサ・ギガンテアに出会う旅~

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世界中に150~200種存在するといわれている野生バラのうち、現代バラに関わってきた野生種は10種前後といわれています。そのなかでも、現代バラの大きな特徴である四季咲き性、ティーの香り、真紅の花色と、重要な形質のもとになったのが中国の野生種です。

 2018年に引き続き2019年4月、その野生種の一つ、ロサ・キネンシス・スポンタネア(Rosa chinensis var. spontanea)の自生地、四川省に加えて、ロサ・ギガンテア(R. gigantea)の自生地、雲南省を訪ねました。17年前にはじめて四川省の自生地を訪ねましたが、9月で開花期ではありませんでした。昨年は、ロサ・キネンシス・スポンタネアの花を見るべく5月の連休に四川省各地を巡りましたが、すでに花が終わっていました。自生地での開花を見ている方の情報をもとに開花期をねらって訪ねたのですが、残念でした。そこで、今回は昨年より2週間早く訪問することにしました。

 

まず、南京へ

四川省に入る前に、中国の野生バラとそれらをもとに改良された中国独自のオールドローズ(中国古老月季)に詳しい、南京の王国良氏を訪ねました。彼は日本での研修、研究経験もあり、日本のバラ愛好家との交流もある中国一のバラ研究家です。彼の案内で、これまでの彼の中国バラに関する探索や研究が具現化された江蘇省常州市の市営紫荆公園のバラ園を訪問しました。

 

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中国一のバラ研究者、王国良氏と常州市の紫荆公園のバラ園

 

このバラ園は2012年に世界バラ会連合から優秀庭園賞を受賞されています。現代バラの植栽されているバラ園はとてもよく管理されていましたし、何よりも圧巻だったのは、王氏によるデザインのバラ園で、彼の収集してきたバラを中心に、中国の重要な野生種とそれらをもとに育成されてきた初期の栽培バラが植栽されていました。モッコウバラやオドラータの仲間が主に植栽され、どのバラも見事に育っていて、野生種から中国の栽培バラが成立し、ヨーロッパに渡っていくまでの過程がよく分かるバラ園でもありました。

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ロサ・キネンシス・スポンタネア

 

 

四川省成都へ

南京から四川省の省都、成都市に飛び、昨年も調査した成都から約300km北東の平武に向かいました。平武を訪ねるのは3度目で、ロサ・キネンシス・スポンタネアの自生を確実に見ることができる地域です。昨年、花を見られなかったという屈辱を果たすべく、開花をねらい祈るような気持ちで現地を訪ねました。昨年の訪問でロサ・キネンシス・スポンタネアを確認した地点を訪ねてみると、まさに開花最盛期。昨年は花がなく植物体を見つけるのに苦労しましたが、今年は容易に確認できました。本来のロサ・キネンシス・スポンタネアは真紅色の目立つ花ですが、実際に花を見ると、真紅以外にピンクの濃淡、さらには白から淡黄色まで、じつに幅広い花色の個体変異に驚くばかりでした。

 

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ロサ・キネンシス・スポンタネアの白花

 

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ロサ・キネンシス・スポンタネアの黄花

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ロサ・キネンシス・スポンタネアの白覆輪

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ロサ・キネンシス・スポンタネアの色変わり

 

 

今回は、現地に2日間滞在できたので、翌日には、地図上にない道路を入り、日照の明るい谷間沿いを調査しました。そこでは、道路の両側、河川の法面にすばらしい株が自生し、谷間全体に広がる光景を目にしました。まさに、ロサ・キネンシス・スポンタネアの谷間です。また、このバラの自生があるところには必ずといってよいほどに、白花一重のモッコウバラ、ロサ・バンクシアエ・ノルマリス(Rosa banksiae var. normalis)が寄り添うように生えていました。ちょうどモッコウバラの開花もピークで、見事な花を咲かせていました。 

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ロサ・キネンシス・スポンタネアの桃花

 

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ロサ・バンクシアエ・ノルマリス(白花一重のモッコウバラ)

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ロサ・キネンシス・スポンタネアの谷間

 

シャングリラへ

い四川省での調査を終え、成都から直行便で雲南省のシャングリラ(香格里拉)に移動しました。シャングリラは、まさにチベットの入り口で、空港そのものが標高3200m にあります。到着早々から高山であるため、頭痛がはじまりましたが、ここからの運転手兼ガイドが素晴らしい人物で救われました。チベット族で、チベット高地を訪れる観光客を案内しているそうですが、植物にも詳しく、日本語と英語を片言ではありますが話すことができ、高山植物の写真家でもあり、日本の有名な植物写真家をいつも現地に案内しているという人でした。

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シャングリラ高山植物園前でのバラ調査隊(左端がガイドの林森氏)

 

初日はシャングリラ高山植物園を訪ね、この地域特有の植物を見ることからはじまりました。植物園の標高が3200m以上あり、まだ時期的には早く、バラの野生種の新芽のうごきもこれからという状態でした。そこから北に向かい、標高の低い金沙江(長江の上流)の周辺まで行きましたが、あまりにもドライな乾燥地で、目的のロサ・キネンシス・スポンタネアを見ることはできませんでした。しかし、途中の村で、明らかな中国起源のティーローズを見ることができました。

 

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シャングリラの村に植栽されていたティーローズ

 

 

シャングリラから麗江へ

シャングリラから麗江へ向かう途中、小中甸に立ち寄り(標高3200m)、ロサ・プラエルセンス(Rosa praelucens、中甸刺玫)を見ることになりました。チャンスがあれば自生の様子を見たかったバラです。かつて、1990年に英国のRHSウィズレー植物園に研究員として滞在していた際に、英国のプラントハンター、ジョージ・フォレストにより1910年代に採取されたこのバラの錯葉標本を見ていたからです。その標本を見た際に驚愕したのは、バラとは思えないような太い樹木標本であったからです。それもそのはず、バラ属で唯一樹木状になるサンショウバラと同じ亜属に入るバラの野生種でした。おそらくバラの野生種のなかで最も巨大な樹木だろうと想像していたバラです。

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巨大なバラ、ロサ・プラエルセンス

幸運だったのは、今回の雲南省でのガイド氏の故郷が、この小中甸であったことです。案内してくれたそのバラはまさに世界一巨大な木立性のバラでした。株元の株周りは1m以上あり。高さは数メートルを超えてそびえたっていました。まだ、寒いので新芽は萌芽していませんでしたが、ガイド氏は子どもの頃より見ていたとのこと。樹齢は300年以上かもしれないとのことでした。

 シャングリラから麗江に近づくと、麗江特有の栽培バラ、リージャン・ロード・クライマーが出迎えてくれました。リージャン・ロード・クライマーという名前は、最初にこのバラを発見した英国人により名付けられた品種名です。リージャン(Lijiang)は麗江の中国語音で、まさに麗江周辺でだけ見られるつるバラです。このバラはちゃんと記載があり、ロサ・オドラータ・エルベッセンス(Rosa ×odorata var. erubescens、粉紅香水月季)が正式な学名です。オドラータバラの一変種ということになります。

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リージャン・ロード・クラマー

 

 

麗江から大理へ

麗江から大理市へと移動した大きな目的は、1997年に私が初めて雲南省に調査に入った際に発見したピンク花のロサ・ギガンテア(Rosa gigantea)を再発見することでした。そのバラを大理市の北、洱源県三営村で発見していたので、その村に立ち寄ることにしました。ただ、以前訪ねたのは20年以上前のことで、村はすっかり様変わりしていました。以前発見した場所までは行けませんでしたが、小さな川沿いの民家の裏で、花色がピンクのロサ・ギガンテアを発見しました。それは大きな木に登はんすること数メートル、大輪の花を咲かせていました。後に、地元の研究者に確認すると、ピンク花の変異個体は、雲南省でも限られた麗江から大理市の間でのみで自生がみられるとのことでした。その花に出会えたのは本当に幸運なことだったんですね。大理市の南では、クリームイエローから白く花色が変化する本来のロサ・ギガンテアも発見しました。

 

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ロサ・ギガンテア

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ロサ・ギガンテア

 

その後、昆明で雲南省農業研究所研究員の李氏を訪ね、彼が経営するバラの育種圃場で雲南省内のロサ・ギガンテアの分布に関する情報交換を行いました。

今回は、昨年の経験をふまえ、渡航時期を早めたことが幸いし、開花最盛期に遭遇することができ、成功裡に調査を行うことができました。最後は、雲南省では、いたるところにバラの花を使ったお菓子の店を見ることができましたが、この地域の代表的なお土産だということです。鮮花餅というそうですが、砂糖で甘くしたバラの花弁が餡子のように中に入った洋菓子です。中国野生バラとの出会いに感謝しながら、口いっぱいに頬張り、美味を堪能しました。

 

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雲南省では至るところにあるバラを使ったお菓子の店

 

 

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上田善弘(うえだ よしひろ)

岐阜県立国際園芸アカデミー前学長・客員教授。花フェスタ記念公園理事。大阪府立大学大学院農学研究科修了。農学博士。30年以上に渡り、バラの分類、遺伝、育種に関する研究を続けている。NPO法人バラ文化研究所理事、ぎふ国際ローズコンテスト審査委員、国営越後丘陵公園「国際香りのばら新品種コンクール」審査委員長などを務める。バラの遺伝資源探索のため、中国やラオス、イランなどで調査を重ねる。主な著書に『バラ大図鑑』(共著編、NHK出版)など。

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