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バラをもっと深く知る⑥
いまのバラのスタイル~先が尖ったかたちの花弁「宝珠弁」

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 何か“新しく”感じる・・それと意識しなくても、そのバラに惹かれるのには、理由があります。最近生まれてきたバラのスタイルは、さまざまになってきました。「剣弁高芯咲き」、あるいは「オールドローズのようなカップ~ロゼット咲き」と定まったスタイルだけではなく自由になってきましたが、私たちが“新しい”と思う花には、共通点があります。育ててみると、開花の性質や樹の特徴も大切です。

まず「花」を構成する大事なパーツの一つ、花弁の表現から“新しさ”を見てみましょう。(写真は‘シェエラザード’)。

魅惑のヘムライン

「花形」は、花色や花の大きさとともに、その品種の印象に大きく影響を及ぼします。それは、花弁のかたちと重なり方で構成され、別に表現されます。例えば、「剣弁」は花弁の表現、「高芯咲き」は咲き方の表現で、あわせて「剣弁高芯咲き」となります。剣弁高芯咲きは、先が尖った花弁を高く盛り上げて、花芯が割れずに巻き上げたときカッコ良く感じるものです。花芯が盛り上がっていなければそれは「高芯咲き」ではありません。逆に芯が盛り上がっていないと、それだけ親しみやすくなります。また花弁の幅が広くなり尖り方がゆるやかになると「半剣弁」で、剣弁の品種よりやわらかく感じます。

 

さて最近の人気のバラに共通する特徴が、「先が尖っている」かたちの花弁を持つことです。花の真正面からみると、ギザギザしたかたちが周辺にオーラを発するように現れ、光を受けてキラキラきらめき、横から見るその花弁がさざ波のように重なって見え、動きも感じます。魅惑のヘムライン! 「ヘム」とは、衣装の縁、袖口や裾などをさします。

人気品種にみる「先が尖った花弁」と咲き方

さてこのかたちの花弁を持つ花を主な人気品種からみてみましょう。まず、2002年発表、ずっと人気を保っている‘ジュビリー セレブレーション’(英オースチン)。内側の花弁も先端が尖っていますが、「カップ~ロゼット咲き」の印象の方が強く感じらます。

それを強く感じさせたのが2008年発表の‘ガブリエル’(河本バラ園)。中央に紫をさす先が尖った花弁が波打って重なり、まるで天使が翼を広げているようです。「神秘的」という言葉がふさわしいでしょう。「天上の香り」を思わせる芳香もあります。花弁のかたちが、咲き方がなどそれと意識しなくても印象に残り、いまにいたるまで多くの人を虜にし続けています。

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‘ガブリエル’。春花(上)とより神秘性を増した秋花(下)

 

さてその後、海外の品種では2010年に‘モニーク ダーブ’(仏ギヨー)が登場。パウダーピンクの株がコンパクトなバラです。

2012年には、‘ノヴァーリス’(独コルデス)が発表されました。しっかりとした株姿で葉の耐病性が高く、一般に性質が大人しめの藤色系の品種に対して「藤色系なのに樹が丈夫」「最強の青バラ」と捉えられ、人気を集めてます。しかしその人気は、花に十分以上の魅力があるからこそ。大きなカップ咲きで日本人がとくに好む藤色という点に加え、先が尖った花弁の重なりが、花の表情をとても豊かにしています。

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‘ノヴァーリス’。たくさん咲く春花(上)とたっぷりと抱えて咲いた秋花(下)

 

2013年には‘シェエラザード’が、東洋のバラ「ロサ オリエンティス」というブランドネームとともに発表されました。この品種の花にはオリエンタルな雰囲気のあでやかさと新鮮さが共存し、一般の人気に加え専門家の評価も高く、国内の各種国際コンクールのほか、2018年には海外のコンクールでも受賞するなど、すっかりいまの日本を代表するバラの一つになっています。あでやかな花色の中輪・芳香・よく茂りまとまりが良い株・繰り返して咲く開花の性質と、バラとして全体のバランスがとても良くとれています。

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‘シェエラザード’。新しいスタイルの花は、海外でも新鮮に捉えられている

 

2018年には花弁の先が尖るかたちの品種が多く発表されました。

 

‘恋きらら’は(京成バラ園芸)さわやかな黄色の丸い花弁の先が尖る中輪。花の印象にぴったりのヒヤシンスグリーンのようなさわやかさにスパイシーなアクセントのある芳香。花付き・花保ちが良く、コンパクトな株の上に初冬まで咲き続けます。

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‘恋きらら(こいきらら)’。大房で咲いた春花(上)、一輪によって見るとかたちがよくわかる(下、秋花)

 

イングリッシュローズの ‘ザ ミル オン ザ フロス’も2018年発表。少し小さめのディープカップ咲き。丸く大きめの外弁がカップ&ソーサーのかたちとなって、内側の小さい先が尖った多くの花弁を抱えて咲きます。フルーティな芳香があります。珍しい覆輪花としてとくに日本で人気を集めていますが、花色に加えてこういった細かい造型にも心惹かれるのでしょう。

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‘ザ ミル オン ザフロス’。少し小振りの深いカップ咲き(上)だが、内側の花弁は細かく先が尖っている(下)

 

‘シェエラザード’の美のスタイルを引き継いだ‘ペネロペイア’(ロサ オリエンティス)は2018年発表。ピンクをベースに、クリーム、アプリコット、黄色が混じり合う中輪です。ダマスクにティー、スパイスの強香。あたたかみのある花はしっとりとした華やかさと包み込むような風情があります。樹は直立性シュラブで、つるバラとしても仕立てられます。

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‘ペネロペイア’

この春発表早々話題と人気を集めているのが‘シャリマー’です。この品種も‘シェエラザード’以来の美の系譜を受け継いでいます。緑を含む白く細長い蕾から開花、中心にピンクを残してやわらかに咲く少し大きめの花です。ダマスクにティー、ハーブの芳香。細長く小さめの葉、細い枝で日本の愛好者の好むやわらかさを花と株全体に表現した木立性シュラブ。同時に半年に一回の殺菌剤散布で葉をきれいにキープする耐病性を持ち合わせ、進化型の「ロサ オリエンティス プログレッシオ」と、新たに位置づけられてています。

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‘シャリマー’。開き始めはやさしい新鮮さがあり(上)、花が咲く株姿全体でやわらかさを表現(下)

 

ロサ オリエンティスにはこのほか、‘ライラ’‘キルケ’‘ル サブリエ’など、花弁の先が尖る品種が多くありますが、やはりこういった花弁が印象に残るのは、花弁が波打っている「波状弁」が、微妙なバランスで重なる品種。花の印象には、花色とともに花弁の重なり具合が大きな影響を与えます。なお「波状弁」のヨミは正しくは「はじょうべん」でしょうが、わかりやすくするため通常「なみじょうべん」と呼ばれています。

揺れる水面・きらめく花弁

いまのバラの多くは、かつてのように定まったかたちが最初にあるのではなくフリースタイル。まず育種家が心地良いと感じたものが発表され、愛好者がそれを“美しい”“新しい”と感じ、認めて、はじめて新しいスタイルとして成立していきます。新しい花弁の表現「先が尖ったかたちの花弁」の花。その新しいスタイルは、言葉に現わさないと伝わりません。先が尖ったかたちの花弁は「宝珠弁」(ほうじゅべん)と名付けました。「宝珠」は文字通り宝の珠。実際のお宝ではなく、心の豊かさの意味で使われます。宝珠弁を持つバラたちは、いまの私たちの心の大海の中で、おだやかに波打ち揺れる水面にさざなみをきらめかせ、豊かさと幸せを感じさせています。

玉置さん

 玉置一裕 Profile 
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。 
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。

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