2019.08.26 UP
エアルームトマトを知って家庭菜園のさらなる扉を開けよう!
皆さんは「エアルームトマト」という個性豊かなトマトをご存知でしょうか。毎年畑を借りて家庭菜園を楽しんでいる方でも「エアルーム」という言葉を知っている方は少ないかもしれません。
エアルームってなんだろう?
御倉さんが畑で育てているエアルームトマト”Costolupo di Parma” ここ4、5年友人の協力もあって、御倉さんがタネを採り続けている品種です。
エアルーム(Heirloom)(または、ヘリテージ(Heritage))とは、直訳すると「財産」「宝物」「代々受け継がれていくもの」などの意味をもち、遺伝的に安定した品種を意味します。その地方の環境に適応し、固定化した品種のことを意味し、日本でいうところの、在来種や地方野菜、伝統野菜と同じような意味を持っています。
世界にはトマトに限らず、カボチャやトウモロコシ、マメなど先祖伝来のエアルームな品種がたくさんあり、大切に受け継がれています。このエアルームは一般的な家庭菜園から、独創性あふれる家庭菜園の世界へと誘ってくれる大変魅力的な品種なのです。
エアルームのなかでも特にトマトに魅せられ、今回は1999年から20年に渡って500種類以上に及ぶエアルームトマトを育ててきた園芸研究家 御倉多公子さんに、家庭菜園のさらなる扉を開くきっかけとなる「エアルームトマト」の魅力についてお伺いしました。
〜園芸研究家 御倉 多公子(おんくら たきこ)さん〜
英国王立園芸協会日本支部「RHSJキッチンガーデンクラブ」世話人代表を務めた経験から、同日本支部解散後も、新たに園芸家たちで立ち上げた「キッチンガーデンクラブ」の世話人代表を務める。『トマトマニア』講談社、『キッチンガーデンはじめて12ヶ月』誠文堂新光社、監修『Beans!はじめてでも簡単 豆の鉢植え』小学館、『おうちで野菜作り』日経BP社、極楽トマト』講談社など、多数の著書がある。
一般的な家庭菜園のトマトの苗はF1
今年は市販の苗からも栽培。御倉さんの畑で収穫した各社のカラフルなミニトマトたち
ここ最近カラフルトマトも珍しくなくなり、家庭菜園で育てるトマトやミニトマトの苗を買いに行くと、数多くの品種が並び、苗を選ぶのにもひと苦労するほど充実しています。このとき園芸店に並ぶ苗のほとんどが「F1品種」と呼ばれるものです。F1品種とは、生物学用語で「First filial generation」、園芸用語では「ハイブリット(hybrid)」といって1代目の雑種という意味があります。
おいしいトマトやミニトマトの実がたくさんなるように、種苗会社が年月を費やして交配を続け、品種改良してくれたF1品種は、家庭菜園だけでなく、生産者にとっても欠かすことのできない品種です。それはスーパーマーケットでもお馴染み。さらにハウス栽培や技術の進歩で、夏に限らず1年中トマトが楽しめるようになりました。
エアルームトマトは個性的!だからこそ育てたくなる!!
育てやすいF1品種も毎年欠かさず育てている御倉さんが、エアルームトマトの魅力にどっぷりハマったきっかけは、エアルームトマトのビジュアルだったそうです。1998年の英国王立園芸協会の「The Garden」に載っていたエアルームトマトで、「赤くないトマト」と題した記事に釘付けになった御倉さん。翌年の1999年にはキッチンガーデンクラブの仲間の一人が、前年に海外のカタログから取り寄せていた”Persimmon(パーシモン)”、”Pineapple(パイナップル)”、”Tigerella (ティゲレラ)”などを含めた5種類のエアルームトマトのタネで栽培を開始しました。さぁ、御倉さんのエアルーム人生が幕をあけます!
「初めてエアルームトマトを育てた年に栽培した”Tomato Wonderlight(トマト・ワンダーライト)”がとっても印象的でした。今まで見たこともない色も形もレモンそのもののエアルームトマトが収穫できたのです」(御倉)
そんなに黄色くて、レモンみたいなビジュアルのエアルームトマトの気になるそのお味はどんなものだったのでしょうか…?
「しっかりトマトの味でした(笑)。でも、レモンみたいなのにトマト味!? という信じがたいインパクトを与えてくれたエアルームトマトにどんどん引き込まれていきました」(御倉)
エアルームトマトの5つの魅力
20年に渡り、500種類以上に及ぶエアルームトマトを育てて、その樹や実、葉などエアルームトマトの生育の様子や、収穫したエアルームトマトの重さ、直径(巾)、高さ、形、糖度や酸度、食味について、膨大な記録をとり続けているという御倉さんに、一般的なトマトに比べて、エアルームトマトにどんな魅力があるのか伺ってみました。
1 色や柄
私たちが思い浮かべるトマトの色は何色でしょうか? 赤、オレンジ、黄色など。最近では、緑色や黒いトマトなどがスーパーでもたまに見かけるようになりましたが、エアルームトマトは表皮の色だけでなく、果肉の色にもさまざまな種類があるようです。
「例えば、皮が白いのに果肉が赤い色をしているエアルームトマトはピンク色に見えます。その逆に表皮が赤なのに、果肉が白いのでピンク色に見えるエアルームトマトもあるんです」(御倉)
そのほかにも、御倉さんが一番最初に育てたエアルームトマトのようなレモンイエローだったり、全体的に赤い色のトマトだけど、肩のあたりが緑色だったり、縞模様が浮き出てきたり、表皮が毛羽立って桃のようだったり、多種多彩なエアルームトマトに出合うことができたといいます。
「なかでも”Big Rainbow(ビッグ・レインボー)”という品種のエアルームトマトの色は、黄色に白、橙色、赤、ピンク、緑色が混ざり合った、まさに虹のような品種のエアルームトマトでした」(御倉)
2 形
プリーツ形のエアルームトマト ”Costolupo di Parma”
エアルームトマトは形も多種多様です。一般的な球形だけでなく、最近ミニトマトでよく見る楕円形や卵型の他にも、バナナのような形をしたものやひょうたん型、タコ足のように尻の部分にたくさんの割れ目が入ったもの、ストロベリーやハート、プリーツ形のエアルームトマトまであります。なかでも御倉さんのお気に入りは、”Riesentmate aus Siebenburgen”というエアルームトマトの品種で、お尻の部分にたくさんのミニトマトが内側から凸凹と現れたようなものもあり、見た目の楽しさと面白さが満点なんです!!
3 大きさ
原産地アンデスで自生していた原種のトマトは、ミニトマトよりも小さいマイクロトマトくらいの大きさ。それがメキシコへと渡り、ヨーロッパなど世界に広がっていきました。そのため、エアルームトマトの大きさもバラエィに富んでおり、御倉さんが育てた種類の中には、直径7〜9mm程度のマイクロトマトの品種から、両手でようやく持てるほどの大きさの直径140〜160mm、重さは700〜800gほどもあるエアルームトマトまであったそうです。
4 断面
エアルームトマトをカットして断面を見てみると、ぎっしりと果肉が詰まったものから空洞なもの、ゼリー状の部分が多い多汁の種類などがあります。この中身の状態によって、エアルームトマトの最適な調理方法を選べぶことができると御倉さんは教えてくれました。
「果肉が詰まっているけれどゼリー状の少ないエアルームトマトは、汁が出にくいのでハンバーガーやサンドイッチに最適で、そのまま焼きトマトにしても美味!スタッフィング用という中身が空洞のエアルームトマトはチーズやひき肉を詰めて肉詰めにしていただきます」(御倉)
ピーマンの肉詰めならぬ、エアルームトマト肉詰め、食べてみたいですね。エアルームトマトの特徴を生かした料理を思いっきり味わいたい気持ちが溢れます。
5 ネーミングセンス
エアルームトマトのネーミングは、なんだかとってもチャーミング。エアルームトマト”Tiger(タイガー)”はトラ模様をしていますし、”Oxheart(オックスハート)”は牛の心臓という意味で、ハート形をしています。”Juliet(ジュリエット)”はヘタがシュッと長く、美人でツヤのあるきれいなエアルームトマトです。そして、”Beefsteak(ビーフステーキ)”という名の大型のエアルームトマトは、横に切るとなんだかビーフステーキみたいなんだそうです(笑)
エアルームトマトはトマトのおいしさを覆す!?
ここ最近私たちが口にするトマトは、フルーツトマトや塩トマトといった際立った甘さが話題となるトマトが脚光をあびています。
「昔のトマトの味を思い返してみると、甘みのほかに酸味や野性味あふれる青臭い風味などさまざまな味の記憶がよみがえってきます。このエアルームトマトの味も「甘い」だけでは表現することはできない、奥行きのある味わいがあります」(御倉)
御倉さんは新しいエアルームトマトを育てるたびに、種類ごとに微妙な味の違いに驚きと喜びを感じるんだとか。
エアルームトマトは旨味成分の宝庫!
御倉さんは栽培を始めた初期のころから、収穫したエアルームトマトに甘みや酸味以上に日本でいう昆布のような旨味成分のコクを感じていたそうです。最近では昆布と同じグルタミン酸が、トマトに含まれているということは常識になりましたが、その当時まだ知られていない旨味をしっかり感じるほど、普通のトマトに比べてエアルームトマトでは感覚を呼び起こすような何かを味わえるのだそうです。
エアルームトマトを育てよう!
タネから育てるということを除いては、エアルームトマトと通常の家庭菜園のトマトの育て方(露地栽培)に大差はありません。育てるエアルームトマトの品種が、日本の気候(特に雨の多い梅雨時期と真夏の高温期)に耐えられるかどうかが決め手ですが、意外と太陽の光さえあれば、元気にすくすく育ってくれます。
※エアルームのタネは、オーガニックのタネを扱うサイトで手に入れることができます。
エアルームトマトの栽培スケジュール
|
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
作業 |
タネの購入 |
種まき |
鉢上げ |
植え付け |
わき芽摘み・誘引・収穫 (晩生種は霜が降りるまで収穫可能) |
ちなみに、原産地のトマトやハウス内のトマトは、温度さえ保てれば一年中枯れることなく生育しますが、寒い冬の季節がある日本の露地栽培では、一年草扱いとなるので、低温期には生育が止まり枯れていきます。でも、暑さ寒さをある程度防ぐ雨の当たらないベランダでは、越冬することもあるんだとか。
最後に、エアルームトマトを育てる方にアドバイスをお願いします!
「エアルームトマトのタネはちょっと高価ですが、よく発芽してくれるので、菜園仲間とタネを分け合って育苗してください。トマトは夏野菜といわれますが、霜が降りるまで生育を続け収穫することができます。梅雨時期の水っぽいトマトの味と違い、徐々に寒くなる季節に収穫したトマトの味はとっても濃厚!収穫時期によって異なるエアルームトマトの味も楽しんでもらいたいですね。それに、育ててみて実感したことですが、いろんな品種のエアルームトマトをいくつか育ててみると、違う品種同士で生育を助け合っているような気がします。畑のスペースが許す限り、できるだけ多くのエアルームトマトの品種を育ててほしいですね。それに加えて、1種類のトマトではなく、なるべく多くの種類で作ったエアルームトマトのソースは不思議とおいしさが際立ちます。複雑で奥行きのある、味わい深いエアルームトマトのソースの味をぜひ味わってほしいです」(御倉)
ソース以外にも、そのまま炊くトマトご飯やカレーも深い味わいになると教えてくれた御倉さんが教えてくれるエアルームトマトの魅力に、私もぐんぐん引き込まれてしまいました!
F1品種と違い、エアルームトマトは収穫後に来年育てるタネ採りをすることができます。タネから育てて収穫し、また来年のためにタネを採る。その繰り返しのなかで、その土地に合った、そして育てる私たちのための特別なエアルームトマトが作られていくのかもしれません。来年の春はタネを用意して、皆さんも個性豊かなエアルームトマトを育ててみませんか。
(取材・文 Toyorunpe Res)
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