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ハーブ王子のエジプト植物紀行2019
憧れのナイル川で出会った植物たち

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エジプト植物記の第3弾、ナイル川編。その前に言い添えておくと、外国の植物については種類などの同定をしているとあっというまに時間が経ってしまう。野草研究家として同定をせずにあいまいに記すことはできるだけ避けたいので、そんなこともあって間が空いてしまった。

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ナイル川の話に戻そう。私が見たかった、行きたかったナイル川、アフリカ大陸東北部を流れ地中海に注ぐアフリカ最大級の河川であることは有名だ。長さは6,650km、流域面積は2,870,000㎡、表現し難いスケールだ。わが国で最長の河川は、新潟県と長野県を流れる信濃川だが367kmしかない。最大の流域面積を持つ河川は関東平野を流れる利根川だが16,840㎡でしかない。数字を比較してみればそのすごさがわかるだろう。そして、ナイル川はエジプト文明を紀元前から支えてきた神の川でもある。ナイル川なしにエジプトの文化、歴史、そして植生 (植物)は語れない。古代ギリシアの歴史家ヘロトドスは『歴史』に「エジプトはナイルの賜」という言葉を残している。

 

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そのナイル川、上流のエチオピア高原の雨期である8~9月に流れ込んだ雨水を集め、9月中旬から10月上旬にかけて中流から下流が増水し、自然堤防を超え、両岸にあふれ出す、その水流は約1ヶ月間とどまり、その後ふたたび渇水期に入る。この洪水により得られる物が「神からの贈り物」とされ、古代エジプト人はそれをうまく利用してきた、実際にカリウム、リン、有機質に富んだ土壌が毎年供給される。エジプトは乾燥帯でほとんど雨は降らないが、このナイル川の洪水によっていろいろな農作物を育てることができている。

 

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ナイル川探索ボート

 

エジプトへ行く前、ナイル川の植物や植生を事前に予習しておきたく、いろいろ資料を物色したが、欲しい情報が記載されている本は入手出来なかった、なので、ある意味この目でリアルなナイル川の植物が確認出来るとあって、毎晩いろんな妄想をしながら熱い夜を過ごしていた。イシスアイランドから移動した次の日、ボートでナイル川を探索するタイミングがあったのでそこであらゆる植物を観察してやろうと思った。翌日、ツアーメンバー皆で軽快にボートへ飛び乗り、少し川の流れが緩やかな場所でボートを岸に繋ぎわれわれはナイル川の小島のようなところに降りた。

 

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まず、目に飛び込んだのはエジプトのイメージでは想像出来なかった水草たちである、拾っては眺め、拾っては撮影などしていると、あっという間にナイル川のど真ん中に取り残されてしまった。しかしその水草たちは実に美しい。特に葉の基部から流れるような葉脈は芸術的である、ヒルムシロ科ヒルムシロ属の雰囲気で、葉の基部は茎を抱くあたりからヒロハノエビモPotamogeton perfoliatusと考えられる、しかし僕が箱根の芦ノ湖で見たヒロハノエビモに比べて葉の幅がかなり広い、日本に帰りいろいろとPotamogeton perfoliatusの事について調べてみると、形態は水質によって変わり、アルカリ性だとこのように葉が太くなる傾向があるされている。どうやらヒロハノエビモで落ち着きそうだ。

 

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ヒロハノエビモ

 

次に気になったのは葉が細くマツモCeratophyllum demersum L.に似た水草。岸に打ち上げっていた。このマツモの仲間は根を持たずに水面下にプラプラ浮遊し、切れ藻でも増殖する、そのため世界に広く分布する水草とも言えるだろう。ただこの種は分布域から考えるとセイロンマツモCeratophyllum submersumが一番近いかもしれない。

 

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セイロンマツモ

 

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セイロンマツモ地上部

 

さらによく日本の田んぼで目撃する、スカシタゴボウRorippa palustrisの仲間も見つけた、ナイル川の養分をたっぷり吸収し、日本でみる姿よりもより野菜的な姿である。見た瞬間思わず美味しそう~って思ってしまった。スカシタゴボウのイヌガラシ属もかなり近縁種が数多くあり、果実がスカシタゴボウに似て短いものには他に地下茎があるキレハイヌガラシ、ミミイヌガラシ、サケバミミイヌガラシがある。そして雑種も確認されているみたいだが、分類する事が困難との事だ。ここで出会ったスカシタゴボウは葉の裂け方が深く、果実の長さが4~5㎜と短い事と、あと分布的にも純粋なスカシタゴボウでいいのではと思っている。

 

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スカシタゴボウ

 

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スカシタゴボウの花

 

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スカシタゴボウのロゼット

 

そしてさらに歩いてみるとこんなものも流れ着いていた、タマネギAlliumcepaである。僕はこの誰もが見向きもしないであろうタマネギを見てしばらく立ち止まりいろいろ考えていた、というのも古代エジプト文明においてタマネギという植物は文明を支えた有用植物と言っても過言ではないからだ。タマネギは中央アジア原産の植物で、古代エジプトには早くから伝わったとされている。タマネギの栄養成分には糖質が多く、タマネギ特有の香りつまり硫化アリルという成分で、切った時に涙が出るのもこの成分によるものである。ビタミンB1の吸収を促し、疲労回復の効果が期待できるのだ、古代エジプトのピラミッド建設にあたり数多くの奴隷達たちにこのタマネギやニンニクなどを配り食べさせたという。

 

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タマネギ

 

またエーベルスパピルスに訳し忠実に再現されたレシピが非常に面白い。喘息にはタイガーナッツ、タマネギ、腐敗した肉、ガチョウの脂肪にビールを混ぜ煮込んで裏ごしして四日間飲ませる。また壊血病にはタマネギをウシの脂肪の中で小さく砕きそこに貼りつけるなどがある、直訳するとリアルで当時の流れが目に浮かぶ。またタマネギはミイラ作りにおいても欠かせない植物でもあった。ミイラ作りの過程で、最終段階になるとミイラの包帯の間に置いたり、目の窪みにタマネギを詰め込んだりしたそうだ。エジプトではタマネギは魔力をもつ植物と信じられており、ミイラにタマネギを用いたのは、タマネギがもつ魔力が死者に活力を与えると信じられていた、ミイラ作りにおいてもタマネギは絶対不可欠な有用的な植物でもあったのだ。

 

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ナイル川の夕日

 

東京の多摩川や北九州の紫川もそうだが、川を歩くと、そこの土地の地形、植物、暮らしが見えてくる。まだ僕はナイル川のほんの一部しか見ていないが、普段目にしない植物や共通している植物などいろいろな角度でみる事ができた。次はギザの大ピラミッド周辺に生える草木について書いてみたいと思う。

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