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バラをもっと深く知る⑲
ロングセラーのヒミツは!?

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毎年新品種が発表され、新しいバラが注目される反面、次第に忘れられていくバラも。その中でずっと長い人気を誇るバラがあります。人気のヒミツは…。

 

 

 

再び増えてきた新品種

 2019年46品種、2020年50品種、2021年57品種。年二回発行の『New Roses』誌上で発表された最新品種の数です。一時期少なくなってきていたものの、また次第に増えてきました。内容を見ると、最近は愛好者だけでなく提供者サイドでも耐病性をはじめとする“育てやすさ”が強く意識されてきていて、それを実現した品種が人気を集めていることは周知の通りです。“育てやすさ”は、「耐病性」など樹の性質を指します。

 

一方10年以上前に発表されていても、その後長く人気を保っていて、各ナーセリーの販売数で上位になる品種があります。いわゆる「定番」です。

15年~5年前くらいの間の発表品種を時系列に、特長的なバラも加えて、香りのバラを中心にみてみましょう。

 

ナエマ

‘ナエマ’(仏デルバール)の日本発表は2006年。15年経ったいまでも、愛好者の熱い視線を浴びてデルバールのTOP人気です。花は桜ピンク色のディープカップ咲き中輪でフルーティ・フローラルの甘い香り。香り成分の科学分析の「バラの香りが半分・フルーツの香り1/4」という結果がそれを裏付けます。千夜一夜物語を題材にしたゲランの香水と同じ名というストーリーも合わさって、イメージが際立っています。2006年「ぎふ国際ローズコンテスト」で銀賞とベストフレグランス賞を受賞。

 ところがこのバラ、栽培にポイントがあります。樹勢が強く長く伸びる枝先にしか花を咲かせないので、枝が伸びるからと言ってセオリーにしたがって枝を横に寝かせてつるバラ仕立てにしても、短い枝には花を咲かせません。例えばオベリスクに巻き付けても枝先にしか花をつけません。横に広げてフェンスに誘引しても0.6~1.0m近く伸ばした枝先にしか花を咲かせません。つるバラ仕立てにしたいときは段差剪定を。また冬剪定で深めに剪定・切り戻して、背丈くらいの大きめの直立性シュラブとすると、花がふわっと咲いてとても良い雰囲気になります。

 

ガブリエル

ガブリエル’(河本バラ園/花ごころヘブンシリーズ)は、2008年発表以来、長い人気です。中央をほんのり紫に染める神秘的な花は、日本人のみならず花を見た海外の人の心を捉えています。香りは繊細な花と印象が合う、さわやかさもあるローズ・フルーティ・ティーの香り。

ところがこの品種、性質も神秘的。うまく育たず数年経って買い替える人も多くあります。枝は細く樹勢が強くないので、苗のうちは深い剪定は厳禁。摘蕾し薬剤散布をしっかりして育て、冬剪定は弱めに。数年経つと樹に勢いがついてサイドシュートがでるようになります。ところが枝の老化が早いので、黒っぽくなった枝は少し残して切って、緑色の若い枝を残して、さらにその枝を更新していくとうまく育ち、長く楽しめる場合もあります。

 

薫乃(かおるの)

同じく2008年発表でフルーティ・ダマスク・ティーなど「モダンローズのあらゆる成分を含む」とされる芳香を持つのが‘薫乃(かおるの)’(京成バラ園芸)。育種家は“幸せの香り”と言います。直立したコンパクトな株にアプリコットやピンクのニュアンスのソフトベージュの大き目のカップ咲きの花をうつむき加減に、よく繰り返し咲かせます。病気にはあまり強くなく、定期的な薬剤散布しっかりと行い育てます。

 

ローズ ポンパドゥール

2009年に日本で先行発表されたのが‘ローズ ポンパドゥール’(仏デルバール)は、「ポンパドゥール・ピンク」の意味。フランスではその後‘ポンパドゥール’名で販売され、日本同様に人気を集めているといいます。花の個性は「華やかさ」。紫味をおびた濃ピンクの花は大きめの少し乱れたロゼット咲き。香りは科学分析ではローズとフルーティ・フローラルが半々の、典型的な“甘くやさしい”香りです。 国営越後丘陵公園「第5回国際香りのばら新品種コンクール」で銀賞を受賞。春一番花は大きく、ほかの季節は中大輪で咲きます。枝ぶりが繊細ですが樹勢があり、長く伸びる枝も出るので、小型のつるバラとしても育てられます。

 

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枝変わりでソフトピンクの‘ローズ アントワネット’も2020年に発表されました。株は小ぶりに。フルーツとローズ、フローラルの香りが混ざる強い香りがあります。

ボレロ

‘ボレロ’(仏メイアン)も、2009年に日本発表。もう10年以上経ちました。オフホワイトにピンクやアプリコットの滲む中輪花が安定して、春から秋まで咲き続けます。香りは、科学分析でローズが50%強、フルーティが13%強、ティーが8%強とバランス良く。株はよく茂りまとまります。栽培については苗のうちからともかくよく花を付けるので、初期は摘蕾して株を充実させていかないとなかなか大きくは育ちませんが、育ったら花も大きくなり、咲き揃ったとき見事です。

 

フェルゼン伯爵(はくしゃく)

フェルゼン伯爵(はくしゃく)

同じく2009年に「ベルサイユのばら」シリーズの一つとして発表された‘フェルゼン伯爵’(仏メイアン)は、最人気とは言えませんが‘オスカル フランソワ’に次ぐ人気。ラベンダー紫の波状弁の中大輪の花からは「シトラスとバーベナを思わせる力強いさわやかな香り」が漂います。よく繰り返し咲き秋にも多くの花を咲かせます。株は高さ1.2mで樹と花のバランスは良好。黒星病対策を行えば、いつもきれいに花を咲かせられます。

 

真宙(まそら)

アプリコット色の整ったカップ咲き中輪でフルーティな芳香。‘真宙(まそら)’(吉池貞藏作出)は2009年発表。第3回国営越後丘陵公園のコンクールで「フルーティ、ティーの香りにフレッシュなオレンジ果皮ようの酸味がある。女性らしい甘さと親しみやすい清潔感がある。調和がよい」と評され、金賞・国土交通大臣賞を受賞しています。樹はほどよい大きさ。樹勢があり枝が伸び過ぎるとの声もありますが、育てやすい品種です。

 

アイズ フォー ユー 

 2010年には ‘アイズ フォー ユー’(英ジェームズ/ワーナー紹介)が発表されました。花の中央に赤いアイがあるハイブリッド・ペルシカ。微妙に地の花色を変えながら、コンパクトな株に花を咲かせ続けます。香りはスパイシー。専門家により「こくのあるクローブ調のスパイシーにヒヤシンスグリーンやヘリオトロープとバニラの甘さを持つ華やかで濃厚な香り」(国営越後丘陵公園第6回F系銀賞授賞時の評)とされています。比較的耐病性も高く、細い枝先・コンパクトな株にたくさん花を咲かせ続けるものの、なかなか株が大きくならないのが少し難。最初は「ポピーみたい」と言われ少し意外さもありましたが、いまはすっかり認識され、長い人気です。

 

 

シェエラザード

2013年春発表の‘シェエラザード’は、ヨーロッパでも販売され、国内外の各種国際コンクールでも受賞するなど、ロサ オリエンティスのみならず、いまの日本のバラを代表する品種の一つ。ブランドネームのオリエンタルな雰囲気も持ち、発表以来すっと長い人気です。花は濃淡のローズピンクの宝珠弁が波状に重なる、華やかさや妖艶さもありながら気品もある中輪。香りは科学分析ではダマスク、フルーティ、グリーン、スパイシーなど、甘さも新鮮さもバランス良く含み、花保ちの良さも実現。枝は細め、樹は木立性でよく茂り、終わった花枝の途中から分枝して次々と咲きます。初期に摘蕾・弱剪定を繰り返すと樹勢がついて3年後くらいに太いサイドシュートが出てきますので、これを深めに剪定して株姿を保ちます。最近発表のロサオリほどには葉は強くないので、平均月二回の薬剤散布で葉をきれいに保ち、咲き続けます。

 

夜来香(いえらいしゃん)

同2013年に発表された‘夜来香’(青木宏達作出)は、藤色の中大輪。第6回国営越後丘陵公園「国際香りのばら新品種コンクール」でHT金賞・国土交通大臣賞・新潟県知事賞の三冠を受賞。香りの講評では「ブルー:深みのあるブルーローズの香りにさわやかな柑橘系のベルガモットとフルーティな甘さが感じられる明るく洗練された香り」。シュートの出が良く生育力・耐病性に優れ、育てやすい品種で、ずっと売れ続いています。

 

オデュッセイア

2013年秋に発表された‘オデュッセイア’は‘シェエラザード’同様、同時発表の‘ダフネ’ともに長く売れ続いているロサ オリエンティスです。黒赤色の波状弁咲き中輪花はつるバラとしても育てられるバラ。直立する株に房咲きになって、四季を通じて咲きます。香りはダマスクに、ハーブとスパイス。この品種も初期は摘蕾と弱剪定で育てると、株に勢いがつき、早い時期に太いシュートが出るようになって1.5~1.8mの高さに。苗の段階で深く剪定しても、長い枝が出ることはありません。殺菌剤散布は生長期に月二回がめやすです。

 

エターナル

‘エターナル’(ローズなかしま)は2015年に発表。波打つ花弁の藤色の中大輪からはブルーローズの香りが漂います。第9回国際香りのばら新品種コンクールで「濃厚なアプリコットのフルーツの香り、甘い蜜様の香りと上品な花らしさがバランスのよい豪華なブルーローズの香り」と評され、F銀賞・新潟県知事賞・長岡市長賞を受賞しています。樹はコンパクトな横張りで樹の性質は普通。それ以来ずっと売れ続く同社の代表品種です。

 

エウリディーチェ

2016年、‘オルフェオ’と一緒に発表された‘エウリディーチェ’(ロサ オリエンティス)は、花と香りの印象が際立つ注目品種。パウダリーピンクの繊細なロゼット咲きに香りもローズ・フルーツ・パウダリーの甘さで印象的。樹はコンパクトな直立性で、枝にはトゲが少なくしなやか。月二回の薬剤散布で黒星病対策をしっかりとすれば、甘くやさしい花が四季を通じて楽しめます。

 

フィネス

2017年に発表された‘フィネス’は、京阪園芸F&Gローズ「ローズアロマティーク」の第一号で、かつ最人気品種。モーブピンクの波状弁中輪咲きで、「ダマスク・モダン~桃様のフルーツ、ヒヤシンス様グリーン、アニスの香りがアクセントの広がりがあるダマスク系の香り」(第12回国際香りのばら新品種コンクールS系銀賞受賞時)と香りの専門家に評されています。一つの花が終わったらすぐ下から花芽が伸び連続して開花し、こんもりと横広がりに茂った株に育っていきます。樹の性質は平均的で、通常の栽培管理で。

 

 

ロングセラーはアピール点がある

ご紹介した品種の中には国際コンクールで賞を受賞した品種していない品種もありますが、それは決して品種の価値や人気を損なうものではありません。もちろん香りがあまり強くない品種で、長く売れ続いている品種もあります。

人気品種に共通するのは、中輪から小中輪~中大輪で、花の個性が際立っていること。花に良さ・新しさがあり、視覚的にアピールする点があります。育てるにあたって耐病性がある程度あるなど、樹の性質も伴っています。この両者のバランスが良いことが大事ですが、中には樹の性質に何等かの欠点やクセがあり、最新のバラに比べて耐病性が劣っていていまの基準で“育てやすい”とは言えないものの、花や香りに心を捉える十分以上の個性があり、ずっと人気を集めている品種もあります。

そのうちでも「香り」は、とても大きい要素です。「香りは理性を失わせる」と木村卓功さんは言います。育種上、香りと耐病性を高レベルで両立させることは至難のワザとも言われます。

 

花も樹も、香りも。ますますバラは進化します。2022年はどんなバラが発表され、私たちをときめかせてくれるのでしょうか。

 

玉置さん

 玉置一裕 Profile 
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。 
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。

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